しゅんらん (春蘭) 

学名  Cymbidium goeringii (C.forrestii, C.virescens, C.virens, C.formosanum)
日本名  シュンラン
科名(日本名)  ラン科
  日本語別名  ホクロ・ホオクロ・ホクリ・エクリ・ハクリ、ジジババ
漢名  春蘭(シュンラン,chūnlán)
科名(漢名)  蘭(ラン,lán)科
  漢語別名  草蘭(ソウラン,caolan)、山蘭(サンラン,shanlan)、朶朶香(ダダコウ,duoduoxiang)
英名  Goering cymbidium

2021/03/03 小平市玉川上水緑地  (自生) 

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2024/03/14 野川公園自然観察園 

2009/04/20 仙台市東北大学植物園 (自生)

 シュンラン Cymbidium goeringii(C.forrestii) は、中国では古くから観賞用に栽培せられ、品種改良が施されてきた(日本では、これを中国春蘭と呼ぶ)。

 はなびらの形により
梅瓣
荷瓣
水仙瓣
蝶瓣
に分け、それぞれに素心などの型を区別する。  
 シュンラン属 Cymbidium(蘭 lán 屬)には、熱帯~温帯アジア・オーストラリア・オセアニアに約55-80種がある。

 そのうち、東アジアに産するものを東洋蘭と呼び、次のようなものがある。

   C. aloifolium(C.pendulum;紋瓣蘭・硬葉吊蘭・劔蘭・樹茭瓜) 『中国本草図録』Ⅷ/3950
         兩廣・貴州・雲南・ヒマラヤ・インドシナ・マレシア産
   アキザキナギラン C. aspidistrifolium(C.japonicum var.aspidistrifolium,
         C.bambusifolium, C.lancifolium var.aspidistrifolium)
         紀伊半島・四国・九州・琉球・済州島・臺灣産 絶滅危惧IB類(EN,環境省RedList2020) 
   C. bicolor(硬葉蘭・南亞硬葉蘭) 兩廣・貴州・雲南・インド・スリランカ・カンボジア・マレシア産
   スゲラン C. cochleare(C. babae;垂花蘭) 臺灣・雲南・ヒマラヤ産
   C. cyperifolium(沙葉蘭・套葉蘭) 兩廣・貴州・雲南・ヒマラヤ・インドシナ・フィリピン産
   ヘツカラン(カンポウラン) C. dayanum(C.alborubens, C.dayanum subsp.leachianum,
         C.dayanum var.austrojaponicum;冬鳳蘭・夏鳳闌・垂蘭)
         九州・臺灣・福建・兩廣・雲南・ヒマラヤ・インドシナ・マレシア産、和名は寒鳳蘭
   C. defoliatum(落葉蘭) 四川・貴州・雲南産
   C. eburneum(獨占春・龍州蘭)海南島・廣西・雲南・ヒマラヤ産
   スルガラン
(オラン・ギョクチンラン) C. ensifolium(C.gyokuchin, C.koran, C.shimaran,
         C.yakibaran,C.ensifolium var.rubrigemmum, C.ensifolium var.misericors,
         C. ensifolium var.arrogans;
         建蘭・彩心建蘭・秋蘭・八月蘭・官蘭;E.Cymbidium) 『中国本草図録』Ⅳ/1948
     ソシンラン var. sushin(C.gyokuchin var.soshin;素心建蘭)
   C. erythraeum(長葉蘭) 四川・雲南・チベット・ヒマラヤ・インドシナ産
   イッケイキュウカ C. faberi(C. oiwakensis, C.scabroserratum;
         蕙蘭・九子蘭・九節蘭・雲南美冠蘭・土百部・化氣蘭)
         
臺灣・漢土(陝甘以南)・チベット・ヒマラヤ・ミャンマー産
   キンリョウヘン C. floribundum(C. pumillum;多花蘭・夏蘭)
         
『雲南の植物Ⅱ』270・『中国本草図録』Ⅱ/0945
         臺灣・浙江・福建・江西・兩湖・兩廣・四川・貴州・雲南・ベトナム産
   シュンラン C. goeringii(C.virescens, C.virens, C.forrestii;
         春蘭・朶朶香・草蘭・山蘭)
         
中国の春蘭をシナシュンラン C.forrestii とすることがある。
     ホソバシュンラン var. gracillimum(var.angustatum, var.serratum,
         C. formosanum var.gracillimum;綫葉春蘭)
     var. longibracteatum(春劔)
   C. hookerianum(C.giganteum var.hookerianum, C.grandiflora;
         虎頭蘭・靑蟬蘭)
 『雲南の植物Ⅱ』270 廣西・四川・貴州・雲南・ヒマラヤ産
     var. lowianum(碧玉蘭)
   C. insigne(美花蘭)  海南島・インドシナ産
   カンラン C. kanran(C.kanran var.purpureohiemale, C.linearisepalum;
         寒蘭)
 『雲南の植物Ⅱ』272
   コラン C. koran 
   C. lancifolium(C.javanicum;兔耳蘭・二葉蘭)
『週刊朝日百科 植物の世界』9-134
         琉球・臺灣・浙江・福建・湖南・兩廣・四川・貴州・雲南・チベット・ヒマラヤ・インドシナ・
         
・マレシア・ニューギニア産
     オオナギラン var. syunitianum
   C. lowianum(C.hookerianum var.lowianum;碧玉蘭) 雲南・インドシナ・アッサム産
   マヤラン C. macrorhizon(C. nipponicum sensu Makino;腐生蘭)
   C. mastersii(大雪蘭) 雲南・インドシナ・ヒマラヤ産
   ナギラン C. nagifolium
本州(関東以西)・四国・九州・琉球・朝鮮産 
     ホシガタナギラン f. conforme
   C. nanulum(珍珠矮)
海南島・貴州・雲南・ベトナム産
   サガミラン C. nipponicum(C.sagamiense, C.macrorhizon var.aberrans, C.aberrans)
         一説にマヤラン C.macrorhizon のシノニム 
   ハルカンラン C. × nishiuchianum
   ナギノハヒメカンラン C. × nomachianum
   C. qiupeiense(邱北冬蕙蘭) 貴州・雲南産
   ホウサイラン C. sinense(C.hoosai, C.yakusimense;墨蘭・報春蘭・豐歳蘭・報歳蘭)
         
『中国本草図録』Ⅲ/1447 
   C. suavissimum(果香蘭) 貴州・雲南・インドシナ産
   C. tigrinum(斑舌蘭)
雲南・アッサム産
   C. tracyanum(西藏虎頭蘭)
貴州・雲南・チベット・インドシナ産
   C. wenshanense(文山紅柱蘭)
雲南・ベトナム産
   C. wilsonii(滇南虎頭蘭)
雲南・ベトナム産

 上記に対して、シュンラン属の植物のうち、熱帯産のものを西洋で改良した園芸品をシンビジウムと呼びならわす。
    
 ラン科 Orchidaceae(蘭 lán 科)については、ラン科を見よ。
 漢名は、3月-4月に花を開くことから。
 和名シュンランは、漢名の音。
 ホクロは、「唇弁にある斑点を顔面のほくろにたとえたものであろう」(『改訂増補 牧野新日本植物図鑑』、但し『牧野日本植物図鑑』には記載がない)。
一説に、ホクロは独頭蘭の意で、一茎一花であることから。
 ジジババは、花の中心にある蕊柱を男に見立て、その下の唇弁を女に見立てて、という。
 和漢における蘭の字の意味の変遷については、蘭の訓を見よ。
 奥尻島・本州・四国・九州・済州島・臺灣・華東・河南・陝甘・兩湖・兩廣・四川・貴州・雲南・チベット・ヒマラヤに分布。
 中国では易危(VU)。
 広く観賞用に栽培する。花の色をはじめとして変異が多く、和漢で多くの栽培型が作られている。
 日本では、江戸時代から 観賞用の栽培をはじめた。
 繁殖は、株分け・播種・組織培養などによる。
 栽培上の注意として、漢土では「春不出、夏不日、秋不乾、冬不湿」を説く。
 花は、茹でてお浸しなどにして食う。
 また花を塩漬けにし、湯飲みに入れて桜湯のようにして飲むと香りが甦る。かつて伊豆の名産であったという。
 中国では、シュンラン属のうち次のものの根・全草を、蘭草・蘭花と呼び、薬用にする(〇印は正品)。『全国中草葯匯編』下/164-165

  〇スルガラン C. ensifolium(建蘭)
  〇キンリョウヘン C. floribundum(多花蘭)
  〇シュンラン C. goeringii(山蘭)
 日本では、『花壇地錦抄』(1695)巻四・五「草花 春之部」に、「春蘭 初中。葉ハらんのちさき物にて、花形もらんのごとし」と。
 僕は水を汲んでの帰りに、水筒(すいづつ)は腰に結いつけ、あたりを少し許り探って、「あけび」四五十と野葡萄(えびづる)一もくさを採り、龍膽(りんどう)の花の美しいのを五六本見つけて帰ってきた。帰りは下りだから無造作に二人で降りる。畑へ出口で僕は春蘭の大きいのを見つけた。
 「民さん、僕は一寸『アックリ』を掘ってゆくから、此の『あけび』と『えびづる』を持って行って下さい」
 「『アックリ』て何にい。あらア春蘭じゃあありませんか」
 「民さんは町場もんですから、春蘭などと品のよいことを仰しゃるのです。矢切の百姓なんぞは『アックリ』と申しましてね。皸
(ひび)の薬に致します。ハハハハ」
 「あらア口の悪いこと。政夫さんは、きょうはほんとに口が悪くなったよ」

   
(伊藤左千夫『野菊の墓』1906)

中国春蘭  2006/03/02 小平市

中国春蘭展より
  2006/02/18 神代植物公園
梅瓣
荷瓣

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